文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 13 呪術とは何か

今回は“呪術”に関して、少し体系的に見てみましょう。ここでも、参考になるのは文化人類学です。

第一の類型は、“模倣呪術”と呼ばれるものです。(“類感呪術”、“共感呪術”と呼ばれることもあります。)これは、「実際に期待することがらを真似して似たような行為をすれば、効果が得られると信じられているもの」だと言われています。(文献1)また、「非物理的な結びつき(共感作用)によって、ある場所での行為が別の場所の物事に影響するという考えに基づいた呪術」であるとも言われています。(文献2)「呪いの藁人形」は、典型的な“模倣呪術”の例だと言えます。

また、フランスやスペインに散在する200以上の洞窟で、何千もの壁画が見つかっています。これらの壁画の大半においては、当時人類が獲物としていた大型動物が描かれています。そして、描かれた大型動物の15%は、槍や矢で傷を負っているとのことです。これらの壁画も、狩猟の成功を祈って、すなわち模倣呪術として描かれたのではないか、と言われています。また、これらの壁画が描かれた期間は、約3万5千年前から2万年もの期間に及ぶそうです。(文献2)

現代社会にも“呪術”は生きていると考えると、それは約3万5千年の歴史を持つことになりますね。そうしてみると、実際に効果があるかどうかは別として、“呪術”は我々現代人の心にも、何らかの影響を及ぼしていると考えた方が良さそうです。

また、前記の洞窟壁画よりも高い技術で描かれた壁画が、フランスのラスコー洞窟で発見されています。これは、1万7千年前~1万2千年前に描かれたものと推定されているようです。この壁画こそが、芸術発生の起源だとする説もあります。(文献3)

ラスコー洞窟の壁画が芸術の起源であるかどうかは別として、私は、“呪術”というメカニズムの中に、近代芸術の謎を解くカギが秘められているのではないかと考えています。例えば、人は何故、絵を描くのか。(この話は、次回以降にて)

“呪術”の第二の類型は、“感染呪術”と呼ばれるものです。誰かを病気にしたり、殺したいと思うとき、その人の毛髪、爪、唾液や衣服などを手に入れて焼いたりする方法です。

次に、目的に従って“呪術”を分類する方法もあります。“呪術”には、人々にとって良い結果をもたらすものもあって、これを“白呪術”とか“招福の呪術”と呼びます。具体的には、病気を治す、雨を降らせる、豊作・豊漁を願うものなどがあります。反対に、人々に悪い結果をもたらすものを“黒呪術”又は“邪術”といいます。

(参考文献)
文献1: 文化人類学入門/祖父江孝男/中公新書/1979
文献2: 人類はどこから来て、どこへ行くのか/エドワード・O・ウィルソン/2013
文献3: 芸術人類学/中沢新一みすず書房/2006