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文化で遊ぶ

(旧タイトル:文化の誕生)

No. 16 祭祀、それは熱狂から始まった(その1)

先日、“呪術”に関する文献を探しにターミナル駅近くの本屋へ出掛けたときのことでした。バスで20分程の距離です。何気なく見慣れた街並みを見ていると車内放送がありました。「今日は夏祭りがあるので、終点までは行けない。1つ手前のバス停で降りて欲しい」とのことです。申し訳なさそうに運転手の方がそう告げました。

指定された停留所で降りると、道路を閉鎖している警察官の姿が目に入りました。物々しい雰囲気です。駅に向かって歩いて行くと、ただでさえ狭い歩道に焼き鳥、たこ焼き、生ビールなどの出店があり、売り子たちの威勢の良い声が飛び交っています。やっとの思いで目貫通りに到着すると、そこは更に混雑していて、浴衣を着たご婦人たちが我が物顔で歩道に立ち塞がっています。山車が車道を占拠し、スピーカーからはこの祭りには何年の歴史があるとか、どこそこ町内会の山車が通り掛かっているとか、そんな説明が大音量で繰り返されています。ふと目をやると、お揃いの浴衣を着た一群の人々が、踊りながら行進しています。一糸乱れることのないその動作には感服致しましたが、違和感を抱いたのは、私一人だったでしょうか。同じ衣装で、同じ動作で、おまけに笠を被っているから顔すら見えない。そこには、断固として個性を認めない伝統文化の主張がある。

人間の個性は尊重されるべきだ、というのが私の基本的な立場です。その前提は、人間には個性があるということですが、本当にそうでしょうか。仮にあったとして、人間は、個々人が個性的であることを望んでいるでしょうか。最近、そんなことも疑問に思えてなりません。

さて、話を本題に戻しましょう。前回まで“呪術”について述べて来ましたが、その後、人々はどうしたでしょうか。人々は、集まるようになった。集まって、白呪術を始めたのだと思うのです。これは、人類が農耕を始めるよりずっと以前、何万年も前から行われてきたものと思われます。最初の形態は、祭りのようであり、儀式のようでもあった。そこで、この2つを総称して、このブログでは“祭祀”(さいし)と呼ぶことに致しました。

では、祭祀のパターンを紹介致しましょう。まず、祭祀を行う目的ですが、「一地域のトーテム集団の成員が、トーテム動物の数を増す目的で行う」とする説があります。(文献1)トーテムについては、以前の原稿で、イワム族のオオトカゲ・グループについて紹介致しました。そのグループの人々は、自分たちの祖先はオオトカゲであると考えています。従って、「トーテム動物の数を増す」というのは、すなわち自分たちのグループの繁栄を意味しています。また文献1には「その動物との連絡を実現するための努力を含んでいる」という記載もあります。これは正に祭祀を通じて、自分たちの祖先とスピリチュアルなレベルでつながることを意味しています。祭祀の目的としては、その他にも「通過儀礼や、治療、狩猟、天候のコントロールといった生存に関わる問題」があったとする説があります。(文献2)こちらは、正に白呪術といったところでしょうか。「天候のコントロール」と言えば、“雨ごい”の儀式が有名ですね。ただし湿地帯では、反対に雨が止むことを祈願することになります。

次に、祭祀を行うときの服装ですが、様々な装飾品を身に着けていたものと思われます。ちなみに「穴をあけたペンダントは、少なくとも13万年前までさかのぼれる」(文献3)と言われています。ペンダントの方が言葉よりも古い可能性がありそうですね。ファッションというのは人間にとって、根源的な文化であることが分かります。また、装飾品の他にも刺青やボディ・ペインティングなども盛んに行われてきました。これらのファッションが施される理由は、2つあるような気がします。まず、記号としてのファッション。その人の属するトーテム・グループを象徴するものだとか、通過儀礼が終わっているか否か、結婚しているか、ライオンを殺したことがあるか、などの区分によって意味を持つファッションが採用されてきた。次に、特段の意味を持たないファッション。これは主に女性によって、なんとなく綺麗だとかカワイイという理由で採用されてきたもの。未開の部族によっては、ちょっと見ただけで度肝を抜かれるようなものもあります。このタイプは、ジャングルやサバンナで偶然他の部族と遭遇したときに、相手方に恐怖を与えることが目的だとも言われています。

では、祭祀において未開の人々は何をしていたのか。トーテム・グループの繁栄を目的とするパターンでは、そのグループのアイデンティティーの基礎となる物語をなぞって、演劇のようなことも行われたようです。しかし、何と言っても、彼らは音楽に合わせて踊っていた。しかも、延々と。一晩中踊り続けて、日の出と共に最高潮に達するような場合もあります。そして、トランス状態に達する。体は痙攣し、呼吸は不規則となり、極度の興奮状態の中で人々は幻覚を見る。それが、トランス状態なのです。

(参考文献)
文献1: 未開社会の思惟(下)/レヴィ・ブリュル/岩波文庫/1953
文献2: 宗教を生みだす本能/ニコラス・ウェイド/NTT出版/2011
文献3: 人類の足跡10万年全史/スティーブン・オッペンハイマー草思社/2007

(文化の積み木)
言葉 + アニミズム + 物語 + 呪術 + 祭祀