文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 134 集団スケールと政治の現在(その8)

(集団スケール一覧/本稿に関係する部分のみ)
1.個人
2.血縁集団
3.帰属集団・・・顔と名前が一致する範囲。
4.組織集団・・・職業別団体、宗教団体、集票ターゲット
5.民族・・・天皇制、宗教国家

日本の新左翼の団体に反天皇制運動連絡会(“反天連”)という組織があります。毎年かどうかは分かりませんが、反天連は8月15日に靖国神社近辺において、天皇制に反対するためのデモを行っています。当然、右翼団体も駆け付けて、デモの妨害行動に出ます。この様子もYouTubeにアップされているのですが、その混乱状況というのは、相当なものです。デモ隊がいて、警護するために機動隊が取り巻いている。通りすがりの一般市民や野次馬もいる訳で、現場は騒然となります。

私が見た画像では、中年から初老位の右翼数人が、ジュラルミンの盾を持った機動隊に突進していくんです。当然、跳ね返されます。それでも、また掴みかかっていく。また跳ね返される。しかし、機動隊が別の右翼に気を取られた隙を見て、機動隊の隊列を潜り抜けたりする。それでも多勢に無勢ですから、すぐに右翼の男は取り押さえられてしまう。そんなことを延々と続けるのです。

もし、一神教の信者であったなら、そこまで過激な行動に出ることはない。仮に、天皇陛下よりも上位の神という存在があったなら、日本の右翼のメンタリティというのは、もっと別の形を取るのではないか、と思うのです。

もう一つ思うのは、右翼のメンタリティというのは、ロジックを否定している。仮にロジックを肯定してしまうと、そもそも宗教(神道)は成り立たない。結果として、右翼は自らの立場や考え方を説明する言葉を持たないのではないか。絶対的な存在としての神を持たず、自らの心情を訴える言葉も持たない人間に何ができるか。それは、“行動”をおいて他にない。だから、本物の右翼というのは、行動するのではないでしょうか。三島由紀夫も同じだと思います。三島も何度か、みずからの立場を説明しようと試みたように思いますが、結局、ロジックに行き着くことはなかった。三島が行きついたのも行動だったのです。

どうやら、私と致しましては、これにて右翼の心情を読み解くことができたように思います。

さて、右翼をもう少し大きな枠組みでとらえると“保守”ということになります。その特徴を箇条書きにしてみましょう。
 ・アニミズム、呪術、祭祀、宗教など、歴史や伝統文化を重んじる。
 ・ロジックを否定する。
 ・最終的には行動、武力で解決しようとするタカ派的な傾向がある。
 ・集団スケールで考えた場合、民族という単位を重視する。
 ・日本においては、天皇制を重視する。
 ・日本においては、日本の歴史や伝統文化に否定的な中国、韓国を嫌悪する傾向がある。

一般に保守系の人々は、その国を支配している外国の勢力に対して反発します。民族の独立を目指す訳です。してみると、現在の日本を陰ながら支配しているのはアメリカなので、日本の保守系の人たちは、アメリカに反発するのが自然の成り行きのはずです。しかし、そうはなっていない。この不自然な現象を指摘する憲法学者もいます。ただ、上記のように考えますと、アメリカが日本の歴史や伝統文化を否定することはない。それをやっているのは、中国や韓国です。だから、中国、韓国に嫌悪感を持つ。そういう構造になっているのではないでしょうか。

ついでに、ネトウヨについても考えてみましょう。一つの傾向としては、次の仮説が成り立ちます。まず、帰属集団からの疎外ということがある。多分、組織集団からも疎外されている。すると、更に大きな“民族”というスケールに行きつく。ネトウヨは、だから中国と韓国を毛嫌いしているのだと思います。ただ、本物の右翼と違って、彼らは決して自ら行動を起こしはしない。なんとなく、ネットを通じて、遠くから見ている。そこら辺は、ディタッチメントの現代っ子という感じがします。しかし、本音としては、他者とのコミュニケーションや、帰属集団における一体感を求めているはずです。(自民党からお金をもらってやっている人は別ですが・・・。)

帰属集団から疎外された結果、血縁集団に戻るケースもありますね。これが、引きこもりとか、パラサイト・シングルなどと呼ばれる人たちの現状ではないでしょうか。

思えば、一つの民族が、同一の創世神話と宗教を信じて一つの国家を形成していれば、世界はもっと平和になっていたはずです。しかし、人類は民族というスケールを上回る集団を作ろうとしてきた。