文化領域論

(No.196 ~ No.228)

No. 161 記号で読み解く日馬富士関暴行事件

前回の原稿では、文化を4つのステップで考えてみましたが、これは時間の経過をベースにした見方ですね。一方、(記号+〇〇)というのは、ただ、現在生きている文化を類型化したものです。こちらの方が、単純で分かり易いかも知れません。

 

ところで、将棋の世界では羽生善治さんが永世7冠を達成されました。大変な偉業だと思います。羽生さんは一体、何手先位まで読んでいるのでしょうか。凡人の私には、想像もつきません。そう言えば将棋というのは(記号+ルール)だなあと思ったりします。また、羽生さんと違って、私はPCやタブレットで将棋を楽しんでいます。いくらやっても上達はしませんが、何度でも“待った”を掛けられる。王手飛車取りが掛かったりしますと、画面を消してしまいます。本当の将棋というのは、負けると大変悔しいものですが、将棋ソフトに負けても、あまり悔しくはありません。これは何かに似ています。少し前の原稿で、最近の回転寿司などでは、作り手の顔が見えにくくなったということを書きましたが、私の場合、将棋を指していても、相手がいないんですね。相手がいないから、負けても悔しくない。悔しくないから、あまり意味がない。意味がないから、上達しない。そういうことかも知れません。

 

記号とは何かというと、それだけで膨大な論議があります。当面、このブログでは「人間が認知するシグナルのようなもの」ということにしておきましょう。

 

また、意味とは何かと考えますと、これがまた抽象的で良くは分からないのです。言語学では、言葉が表す意味を細分化する試みがなされたようですが、未だ、結論には至っていない。このブログでは「実体と、記号と、自分との強いつながり」というニュアンスでこの言葉を使っております。

 

さて、(記号+〇〇)という見方をしておりますと、元日馬富士関の暴行事件なども、見えてくるものがあります。ワイドショーなどによりますと、概ね、経緯は次の通りだったようです。

 

1 1次会の席で、白鵬関が貴ノ岩関に説教をし、日馬富士関は貴ノ岩関をかばった。
2 2次会の席で、再び白鵬関が貴ノ岩関に説教をした。貴ノ岩関はスマホをいじった。日馬富士関は、平手で貴ノ岩関を殴った。
3 貴ノ岩関が日馬富士関をにらんだ。少なくとも、日馬富士関はそう感じ、リモコンで貴ノ岩関の頭部を殴り、負傷させた。
4 日馬富士関は後日記者会見の席で、貴ノ岩関を「弟弟子」であると発言している。

 

大体、こんなところでしょうか。してみると、日馬富士関は同じモンゴル出身の貴ノ岩関との強い関係を認識していた。すなわち、日馬富士関にとって貴ノ岩関は(記号+意味)という存在だったのではないでしょうか。しかし平手でなぐった際、貴ノ岩関がにらみ返して来たと日馬富士関は主張している。これが、貴ノ岩関が発した記号だったと思うのです。たったそれだけの記号によって、日馬富士関は理解したのだと思います。すなわち、自分はこれだけ大切に思っているのに、貴ノ岩関の方は、自分のことを何とも思っていない。そこで、切れてしまったのではないか。

 

そもそも、貴ノ岩関は日馬富士関の「弟弟子」には当たらないと思います。両者は、所属している部屋が違います。それを「弟弟子」と言うところに、日馬富士関の強いつながりを求める心情を感じます。なんだか、フーテンの寅さんに似ていますね。憎めない人なんですが、他人との強いつながりを求め過ぎてしまう。

 

そして、貴乃花親方が登場します。どうやら、貴乃花親方の相撲観というのは、日本の伝統に従っているようです。相撲というのは、単なるスポーツではない。元来、相撲は五穀豊穣などを願って、神様に祈りを捧げる儀式だった。すなわち、貴乃花親方の相撲観は(記号+意味)なんだと思います。対する白鵬の相撲観は、(記号+ルール)なのではないでしょうか。

 

本場所が終わって、一行は巡業に出ます。そこで白鵬が着ていたジャージの背中に“モンゴリアン・チーム”とプリントされていて、これまた物議を呼んだ訳ですが、これは(記号+アイデンティティー)ですね。

 

ところで、ワイドショーが取り上げる話題には、共通点があるように思います。ちょっと前には、小池劇場というのがありました。その前には、森友学園の籠池劇場というのもありましたね。多くの視聴者にとって、これらは身近な問題ではありません。すなわち、大した意味はない。だから、気楽に楽しめる。また、キャラが立っていると言いますか、個性的な人物が次々に登場して来るんです。また、「これからどうなって行くんだろう」というワクワク感もある。これはどうやら、エンタメの1ジャンルとして認めても良いのではないか。キャラクター(記号)が沢山出て来て、ストーリーを展開していく。(記号+ストーリー)でいかがでしょうか。

 

北朝鮮の問題も、頻繁に報道されてきました。これもかつては(記号+ストーリー)として、結構多くの人たちが楽しんでいた。ところが、ミサイルが日本の上空を通過した頃から現実味を帯びて来て、(記号+意味)に変わったような気がします。