文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

人が論理的思考に至るまで

心的領域論の続きで、少し考えたことを記します。今回は私が3次性と呼んでいる領域がどのように生まれたのか、考えてみます。

 

ちょっと復習しますと、3次性の領域は、「概念と論理」に関心を持ち、その文化的な起源は「神話」ということになります。私が考えている3次性の歴史的な経緯は、次の通りです。

 

1. アニミズム
2. 融即律
3. 物語的思考
4. 論理的思考

 

上記の4つのステップを総称して、「神話的思考」と呼ぶのが良さそうです。

 

アニミズムと融即律については、既に述べましたので、今回の原稿では、3の「物語的思考」と4の「論理的思考」について考えてみます。

 

まず、物語的思考に論理性はあるのか、という問題がありますが、結論から言えば、あると思うのです。誰もが知っている童話「桃太郎」を例に考えてみましょう。

 

桃太郎は、何故、鬼退治に出掛けたのか。これは、鬼が悪さをして村人を困らせていたからですね。次に、サル、イヌ、キジの3匹の動物は、何故、桃太郎について行ったのか。それは、桃太郎がキビ団子を分け与えたからです。更に、桃太郎は何故、鬼を成敗することができたのか。その理由は3つあります。まず、鬼が酒盛りをしていて油断していたということ。また、3匹の動物がそれぞれの特徴に従って、多様な攻撃を加えたということもあります。すなわち、サルは引っかき、イヌは噛み付き、キジは突っついたのです。そして、桃太郎はわんぱく小僧で、喧嘩に強かった。これらの点を考えますと、3段論法とまではいかないまでも、この童話には論理性がある。少なくとも、原因と結果の間の因果関係がきちんと説明されている。これが、物語的思考における一つの典型ではないでしょうか。

 

しかし、物語的思考には、抽象的な概念というものが登場しないんです。すなわち、ある言葉があって、それを定義しなければ伝わらないような事柄、すなわち概念は登場しません。

 

次に、物語的思考との対比で、論理的思考とは何か考えてみましょう。

 

我が国の民法で代表的な条文に709条があります。出だしだけ抜粋してみます。

 

民法709条  故意または過失によって、他人の権利を侵害した者は(以下略)

 

たったこれだけの文章の中に、いくつもの概念が登場します。まず、「故意」「過失」「権利」「権利侵害」などを挙げることができます。実務上、特に問題となるのは「過失」です。これは更に、「損害の発生が予見可能であるにも関わらず結果回避義務を怠った場合に過失が認定される」と説明されます。ここでも、新たな概念が出てきます。すなわち、「予見可能性」とか「結果回避義務」とは何か、ということになる訳です。これらも概念です。

 

このように考えますと、抽象的な概念を用いずに、半ば仮説のような形でストーリーを作るのが物語思考であって、複数の事例をベースに概念を用いてロジックを作るのが論理的思考だと言えるのではないか。

 

桃太郎の例で言えば、桃太郎が勝利してハッピーエンドで終わる訳ですが、もう少し柔軟に考えますと、桃太郎が鬼に敗北する可能性だってある。そういう事例を沢山集めてみる。そして、それではどうするのが一番いいのか、ということを考える。これが、論理的思考ではないでしょうか。桃太郎が勝ったり、負けたりする。それでは、鬼と話し合って共存する方が良いのではないか。すると、共存するためのロジックが必要となり、人間と鬼との権利義務関係の調整が必要となる。そして、概念が生まれる。

 

すなわち、物語的思考というのは個別的であり、個人的であり、歴史的な経験に基づいていないと言えそうです。他方、論理的思考というのは、集団的であり、歴史的な経験に基づいている。従って、論理的思考は物語的思考よりも数段複雑だと思います。

 

現代の社会でこの論理的思考に基づく文化というのは、法律学政治学、経済学、社会学などを挙げることができます。どれも複雑で、難しい。他方、現代の社会で物語的思考に基づく文化の典型は、文学と宗教ではないでしょうか。

 

前記の通り、論理的思考というのは難しい。例えば、現在の日本において、何歳位になれば論理的思考能力を持つことが可能になるでしょうか。もちろん、置かれた環境や個人差はありますが、平均的に言えば、二十歳でも難しいような気がします。もっと言えば、現在の日本において、論理的思考能力を持った人というのはどれ位いるでしょうか。多めに見積もっても30%程度ではないかと感じます。何故かと言えば、この問題は、選挙における投票行動に直結していると思うからです。大体、論理的な主張を行っている野党の得票率が30%位ではないでしょうか。また、そのような政党の活動に積極的に参加しているのは、人生経験を積んだシルバー世代の方々が多い。反対に、若い世代が安倍政権を支持している。

 

森友学園問題、加計学園問題、準強姦事件、スパコン問題、裁量労働制などが現在、日本の政治シーンにおいて問題視されていますが、どの事例も簡単ではない。関係する概念に照らして、事実を評価しなければ、正しい意見は持てない。そして、これらの問題の本質を理解できない若い人たちが、安倍政権を支持しているのではないか。そう思えて、なりません。裁量労働制に関する政府案が了承されれば、残業代カットのターゲットとなるのは若い世代だと思うのですが・・・。