文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 184 ライオンの生態から考えるエゴイズムの3類型(その1)

桜が開花したというのに、今日は小雪が舞っていました。安倍政権の支持率は30%程度まで下落し、佐川氏の証人喚問が決まりました。森友学園の問題は、何故、8億円もの値引きがなされたのかという実質的な問題と、公文書が改ざんされたという手続き上の問題の2つがある訳ですが、誰が、いつ、何のためにそのような意思決定を下したのか、この点が一向に解明されていません。言うまでもなく、真相の解明を望んでおりますが、とかく人間の社会というのは、疲れる。そこで、今回はライオンの生態について考えてみて、そこから人間にも共通するであろうと思われるエゴイズムの類型について検討してみたいと思います。学術論文ではありませんので、軽い気持ちでお読みいただければ、幸いです。

 

さて、YouTubeでライオンに関する番組を片っ端から見ておりますと、不思議な気持ちになってきます。そこにはライオンの世界に固有な、人間社会とは異なる“掟”がある訳ですが、似ているところもあるような気がするのです。ライオンの行動原理を“本能”と呼ぶこともできますが、もう少し具体的に考えるために、ここではエゴイズム(“エゴ”)と呼ぶことに致します。

 

1頭~3頭程度で、特段の縄張りを持たずに放浪しているオスの若いライオンもいますが、マジョリティのライオンは、プライドと呼ばれる集団を構成して、暮らしています。プライドは、1頭~2頭のオスのボスライオンによって統率されており、構成メンバーは数頭のメスライオンと子供たちということになります。メスライオンは、互いに血縁関係があるようです。ボスライオンの主な役割は、他のライオン集団から縄張りを守ることで、狩りにはめったに参加しません。他方、メスライオンは、プライドを維持するために必要な狩りを行うと共に、子育てを担っています。

 

ライオンとしても、リスクは負いたくない訳で、なるべくなら簡単に倒せるシマウマなどをターゲットにしますが、必要に応じて、大型のキリンなどに挑む場合もあります。このような場合は、ボスライオンも参加し、狩りを主導します。大人のライオンが総出で、キリンを取り囲むのです。何頭かが、前方に回って、キリンの注意を引きつけます。その隙を狙って、他のライオンがキリンの背後から飛び掛かります。キリンはこれに対抗して、後ろ足を蹴り上げます。これが命中すると、ライオンといえども死んでしまいます。ライオンも命がけなんです。しかし、YouTubeを見ておりますと、小柄なメスライオンも、果敢にチャレンジするんです。しかし、キリンに振り落とされてしまう。そこで、今度はボスライオンがキリンの背後にしがみつく。長くて強力な爪をキリンの肌に突き立てるんです。そして、噛み付く。キリンは次第に弱ってくる。巨大なキリンも、やがて崩れ落ちるのですが、その一瞬を狙って、別のライオンがキリンの喉仏に噛み付くのです。キリンは呼吸困難となり、失神してしまいます。キリンが弱ったと見るやいなや、ライオンの群れが一斉にキリンを食べ始める。殺してから食べそうなものですが、ライオンたちの目的は殺すことではなく、食べることにある。

 

ここまでは、プライドという集団と各ライオンの利害は、見事に一致しています。皆で力を合わせて、獲物をしとめる。

 

キリンやヌーのような大型の獲物をしとめた場合は、プライドのメンバーは一斉に食べ始めるようですが、獲物が小者だった場合には、食べる段階で問題が生じます。すなわち、食べることのできる優先順位が決まっているのです。第一順位は、もちろんボスライオンです。ボスライオンが食べている間は、メスライオンや子供ライオンは、黙って見ていなければなりません。そういうルールなんですね。しかし、メスライオンだって、空腹に耐え兼ねている。だから、ボスライオンの目を盗んで、食べ始めてしまうようなこともある。それが見つかると、ボスライオンから強烈なパンチを食らったりする。ボスライオンは、他のメンバーのことなど一切返り見ることなく、ひたすら自分が満腹になるまで、食べてしまう。人間の目からして特に理不尽だなと思うのは、メスライオンが単独で仕留めた獲物であっても、ボスライオンが優先権を持つことです。何か、ボスライオンはあたかも労働者から搾取する資本家のようではありませんか?

 

プライドに養われていたオスの若いライオンも、3歳位になると、それなりに立派な風貌になってきます。食べる量も増えて来る訳で、狩りを担当するメスライオンの負担が過大になってきます。そのため、ボスライオンは頃合いを見計らって、これらの若いオスライオンをプライドから追放するのです。そして、追放されたオスライオンが、放浪を始める。

 

メスライオンの乳首は4つなので、一回に生まれる赤ん坊の頭数というのも、あまり多くはありません。オスの赤ん坊にとって重要なのは、同じオスの兄弟がいるかどうか、ということです。3歳程度になってプライドから追放される際、兄弟がいれば同時に追放され、兄弟は、以後、行動を共にすることになります。狩りをするにしても、他のライオンと対峙するにしても、頭数が多い方が有利です。不幸にして、兄弟のいなかったオスライオンは、生存確率が圧倒的に低くなってしまう。

 

2~3頭で放浪生活を生き延びたオスライオンたちは、5歳程度になると、他のプライドの乗っ取りを試みます。プライドを手に入れるということは、彼らにとって、縄張りとメスライオンの双方を手に入れることを意味しています。そこで、若い放浪ライオンは、他のプライドに君臨しているボスライオンに戦いを挑む訳です。そこで、オス同士が人生(?)を掛けて戦うのです。相手のボスライオンが年老いている場合は、戦う前に尻尾を巻いて逃げてしまうようなケースもあるようですが、互いに引かない場合は、一方が死に至ることもあるようです。

 

この戦いで、若い放浪ライオンが勝利した場合は、壮絶なドラマが待っています。新たにボスライオンに君臨したオスは、そのプライドにいる全ての子供ライオンを噛み殺してしまうのです。大きな顎と、頑丈な歯を使って、子ライオンの頭蓋骨を噛み砕く。残酷、極まりありません。これは、他のオスライオンの遺伝子を残さないようにするという目的と、そのプライドに属するメスライオンたちを発情させることが目的だそうです。ちなみに、同様の現象はゴリラやチンパンジーでも観察されているようです。

 

子供を殺された母ライオンたちは、悲嘆に暮れますが、新入りのボスライオンに逆らう訳にもいきません。そこで、彼女たちは、新入りのボスライオンの値踏みを始める。この若いライオンは、本当に力が強いのか。そして、これからも長期に渡って、このプライドを支配し続けるのか。メスライオンたちは、新たなボスに合格点を与えた場合、自ら進んで、新たなボスライオンを誘惑し始める。自分の子供を殺したオスライオンに対し、積極的に交尾を仕掛ける。人間の世界であれば、とんでもない尻軽女ということになりますね。しかし、メスライオンとしても、自らの遺伝子を後世に残したいと願っている訳で、そうするためには他に選択肢がないのだと思います。これは、“遺伝子のエゴ”と言っても良いでしょう。