文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 185 ライオンの生態から考えるエゴイズムの3類型(その2)

森友学園の問題は一向に解明が進まず、どうも気持ちがスッキリしません。国会では政府が二言目には「地検による捜査が進行中なので、個別の事案については回答を差し控えたい」と言って回答を拒否しています。この期に及んで、未だに何かを隠そうとしているように見えます。しかし、国会も大阪地検も、真実を発見するためのプロセスに取り組んでいるはずです。そして、既に証拠の大半は押収されている。そうであれば、政府が国会で答弁をしたからと言って、地検の捜査に支障をきたすようなことはないと思うのですが、いかがでしょうか。

 

国会での真相究明が進まない一方、大阪地検がリークしたとしか思えないような情報が、ポロポロとマスコミによって報道されています。そうであれば、まずは法務省が、かかる事実を国会に報告すべきではないでしょうか。

 

では、私の血圧が上がる前に本論に入りますが、もう少しライオンの生態について、見ていきましょう。

 

ある母ライオンが、4頭の子供を出産します。うち1頭は、体が小さく臆病な性格です。そのため、この子ライオンは他の兄弟ライオンと打ち解けることもできず、家族の中で孤立します。更に、この子ライオンは後ろ足を怪我してしまうのです。やがて、プライドは餌を求めて移動しますが、この子ライオンは群れの動きについていけず、はぐれてしまう。空腹と脱水症状が、子ライオンを苦しめます。幸い、プライドを見つけることができ、子ライオンは、母ライオンの元に近づきます。他の兄弟のライオンたちは、母親の乳首を吸っています。怪我をした子ライオンが、母親の乳首に吸い付こうとした瞬間、母ライオンは立ち上がって、授乳を拒否するのです。解説によれば、発育も遅く怪我をしている子ライオンが生き延びる確率は低い。そうであれば、生存確率の高い他の子供たちに授乳した方が良い。ライオンの社会においては、このように我が子を見捨てるというケースは決して少なくない、とのことです。(このドキュメンタリーにおきまして、負傷した子ライオンは幸運にも回復し、生き延びることができます。)

 

この例では、母親が子供を見捨てるのです。

 

次の例では、あるプライドが年老いたボスライオンに率いられています。そして、若い2頭のオスライオンがそのプライドを乗っ取ろうとする。そうなった場合、そのプライドに属する子供たちは、皆殺しになってしまいます。状況を察した母ライオンは、子供たちを引き連れて、こっそりとプライドを離れます。そこから、1頭の母ライオンと子供たちの逃亡生活が始まるのです。子供たちは、まだ狩りに参加できません。よって母ライオンは、自分1人で狩りをしなければなりません。プライドに属していれば、他のメスライオンと連携して、戦略的な狩りを行うことができますが、自分1人ではそうもいきません。ある晩、母ライオンはシマウマを狙いますが、不幸にもシマウマの後ろ足の蹄が母ライオンの腹部を直撃してしまいます。傷は深く、出血しています。瀕死の重傷です。母ライオンは、たまらずその場に横たわってしまいます。

 

やがて、腹を空かせた子供たちは、母ライオンを探しに出かけ、横たわって息も絶え絶えになっている母ライオンを発見します。しばらく、子供たちは不安気に母ライオンを取り巻き、その体を舐めたりしますが、どうやら助かりそうもないと悟ったのか、母ライオンをその場に残し、歩き出してしまうのです。(このドキュメンタリーにおきましては、この母ライオンは幸運にも、生き延びることができます。)

 

この例では、子供たちが母親を見捨てています。

 

それが、サバンナで生き延びるための掟だと言ってしまえばそれだけですが、人間の感覚からすれば、あまりにも非情だと言わざるを得ません。

 

ところで、ライオンの生態には、ちょっと意味の分かりかねるものもあります。それは、プライドが特定のメスライオンを虐待するケースです。

 

ある事例では、メスライオンが他のメンバーから虐待を受け、プライドから追い出されてしまうのです。メスライオンの体には、虐待の激しさを物語るように、無数の引っ掻き傷があります。プライドのメンバーに見つかれば、再び、虐待を受ける。そのため、彼女はプライドから離れた所に身を潜めている。そして、容赦なく空腹が襲ってくる。なんとか近くを通りかかった獲物をしとめる。しかし、解説によれば、プライドを放逐されたメスライオンの生存確率は、かなり低いとのこと。また、プライドを追放されるに至った理由についてですが、番組の解説では「ボスライオンとの関係で、何らかのトラブルがあったのではないか」とのことでした。

 

しかし、日本のサファリパークのような場所での動画を見ますと、ボスライオンと他のメスライオンが一緒になって、一頭のメスライオンに攻撃を加えている。何故、このようなことが起こるのでしょうか。(私は生物学者ではありませんので、ここから先はあくまでも個人的な想像です。)

 

まず、彼女が“序列”というルールを守らなかったという可能性が考えられます。プライドにおける“序列”は、おおまかに言いますと、第1順位がボスライオンで、第2順位がメスライオン、そして最後に子供たちということになります。しかし、更に詳しく見ていきますと、メスライオン同士の間にも序列がある。これは、メスライオン同士の間で、マウンティングという行動が観察されていることから、明らかです。マウンティングとは、相手の背中に馬乗りになり、自分の方が序列が上だということを誇示する行為のことです。プライドにおけるメス同士の序列で関係してくるのは、まず、餌を食べる順序です。しかし、そうであれば、争いは序列を無視されたメス同士の間で起こるのではないか。別の言い方をしますと、序列を無視したメスライオンを攻撃するのは、序列を飛び超えられてしまったメスだけであって、ボスライオンがそのメスライオンを攻撃する理由にはならない。

 

次に、あるメスライオンが序列を無視して、ボスライオンを誘惑したという可能性も考えられます。しかし、この場合であっても、ボスライオンが、そのメスライオンを攻撃する理由にはなりません。ライオンに限らず、メスから誘惑を受けて悪い気のするオスなど、いないのではないでしょうか?

 

更に考えますと、あるメスライオンがボスライオンよりも先に餌を食べてしまった、という可能性も考えられる。そこで、ボスライオンが激怒する。そして、ボスライオンに気に入られたいと思っているメスライオンが、言わばボスライオンの気持ちを“忖度”し、ボスライオンと一緒になってルールを破ったメスライオンを攻撃する。この可能性は、前の2例よりも現実的であるような気もします。しかし、ライオンにそこまで複雑な心理が働くのか、疑問もあります。

 

そして、私が最後に行き着いた仮説は、こうです。すなわち、オスのライオンには、世代交代のルールがある。ボスライオンは、いずれ年老いて、若いオスの放浪ライオンとの戦いに敗れ、プライドを去る運命にあります。では、メスはどうでしょうか。メスにも、そういうルールがあるのではないか。つまり、あるメスが年老いて生殖能力を失い、狩りをする能力までも失ったとする。すると、プライドとしては、そのようなメスを置いておくメリットがなくなります。プライドが確保できる餌の量には、上限がある。一つには、そのプライドが所有している縄張りの広さ。もう一つには、狩りの能力です。3歳程度になったオスのライオンをボスライオンがプライドから放逐する、という話もありました。それと同じように、ボスライオンが、若しくはプライドのメンバー全員で、年老いたメスライオンを追放しようとするのではないか。

 

なんとも恐ろしい仮説ではありますが、昔の日本にも“姥捨て山”という風習があったことを思い出します。