文化領域論

(No.196 ~ No.228)

トップの責任

自衛隊イラク日報の存在が確認され、財務省森友学園側に口裏合わせの依頼をしていたとのNHK報道もありました。もう、官僚の不祥事については枚挙にいとまがありません。この国は、いつからそんな2流国になってしまったのか。

 

当然の流れとして、トップの責任問題も浮上しています。例えば、(元)理財局長の佐川氏。確か3点程の理由に基づき、とりあえず20%の減給3か月という処分が下されました。私が記憶している理由の1つには、「国会答弁で丁寧さを欠いた」というものがありました。これは驚きです。そんなことで、懲戒処分が下されるのか。これはあり得ません。そういう曖昧な理由を付けて、真実を闇に葬ろうとしているとしか思えません。反対に、もし「公的文書の改ざんを指示した」という理由であれば、減給程度の軽い懲罰では済まされないと思います。この点、佐川氏の改ざん指示を示唆するメールが存在すると、大阪地検がリークしたようですが・・・。

 

元来、トップが取るべき責任とは何か。私は、政治家とか官僚に適用される法律については分かりませんので、民間企業に適用される法律を中心に、以下に述べます。

 

そもそも、民間企業においても、不祥事というのは、昔から絶え間なく発生してきました。そして、不祥事が発覚するとほとんどの社長が「自分は知らなかった」と言うんですね。考えてみれば、当然のことです。「これから不祥事を起こします」と社長に報告する馬鹿はいません。

 

民間企業の不祥事にもいくつかのパターンがあります。最近多いのは、セクハラ、パワハラ。それから、会社のお金をくすねてしまう横領というのもあります。しかし、世間を騒がす大事件というのは、大体、社長が利益最優先なんです。営業利益率を上げろ、売り上げを伸ばせ、とそればかりを言うんですね。すると、出世したいと願っている従業員は、法律ギリギリの方法で利益をあげようとする。場合によっては、法律に抵触してでも会社の業績に貢献しようとする。大体、法律を厳密に遵守しようとすると、コストがかかる。もしくは、利益が増えない。

 

ひと度、大事件を起こしますと、その会社の株価が下がって株主が大損害を被る。そこで、不祥事を起こした会社の株主には、その会社の取締役や監査役に対し、損害賠償請求を求める権利が認められています。これが、株主代表訴訟というものです。取締役や監査役が敗訴すると、会社が被った損害額を役員個人が会社に補填しなければなりません。当然、その額は天文学的な数字になる訳で、一時期、上場企業の役員は震え上がったものです。

 

それでも、不祥事はなくならなかった。そして、裁判になると社長以下、異口同音に「私は知らなかった」と主張するのです。この責任感の低さには、法律家も裁判所もあきれてしまったのです。

 

そこで、大和銀行ニューヨーク支店事件と呼ばれる株主代表訴訟において、画期的な判決が出たのです。そもそも銀行の業務というのは、顧客と直接対面する従業員と、後方で作業をする従業員とに分担されているのですが、問題の支店ではそうなっていなかった。そこで裁判所は「リスク管理体制の大綱(基本方針)は、取締役会が決めるべきだ」と判示したのです。つまり、取締役会で決議されたリスク管理の基本方針が妥当であり、かつ、それが適切に運営されていた場合、取締役等の責任は免除される。そうでなかった場合には、全ての取締役と監査役は連帯して会社に対し賠償責任を負うべきだ、ということです。別の言い方をしますと、「知らなかった」という言い訳は認めない。不祥事が起こらないように、制度をしっかり作りなさい。そして、その制度をきちっと運営しなさい、ということになります。

 

その後、法曹界での議論があった訳ですが、上記判決の考え方が良いだろうということになりました。そこで、商法の一部を切り離して会社法を制定する際、大企業には一定の事項を取締役会で決議することが義務づけられたのです。前述の判例では「リスク管理」という言葉が用いられておりましたが、会社法の方はコンプライアンスなども含め、もう少し幅の広い範囲で規定すべき事項が決められました。これが、会社法における内部統制システムということになる訳です。以後、大企業の取締役や監査役に対しては、「内部統制システム構築責任」が課されることになったのです。会社法が施行されたのは平成18年ですから、もう12年も前のことになります。

 

財務省の文書改ざん事件に関し、麻生大臣は「知らなかった」(?)そうですが、私などからしてみますと、まだそんな議論をしているのか、と思ってしまいます。多分、官僚の仕事には、民間の業務以上に法律上の拘束があるのだろうと思います。いろいろな仕事の手順自体が、法律に定められているのかも知れません。しかし、それでも不祥事が後を絶たない現状を考えますと、会社法の例にならって、大臣や官僚のトップに対しても「内部統制システム構築責任」のような責任を課すべきではないかと思います。