文化認識論

(世界を記述する。Since Oct. 2019)

ピカソの壺

あまりの暑さに、私は、心身ともに干からびてしまいました。皆様はそのようなことがないよう、どうかお気を付けください。

 

さて、石ころの魅力に取りつかれてしまった私ではありますが、一体、どこへ行けば拾えるのか、皆目見当がつきません。工事の資材置き場などがあると、覗いてみるのですが、なかなか良さそうな石があったりする。しかし、勝手に持って行く訳にはいきません。どうやら、気に入る石に巡り会うためには、しばらく時間がかかりそうだ。さりげなく路傍に立っているお地蔵さんにも魅力を感じる。しかし、私にはそれを作るだけの能力がない。しかし、何か触れる魅力的な物体を身近に置いておきたい。

 

そこで、ふと思い出した物があったので、写真に撮ってみました。

 

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大層な価値のある物かと言えば、そうではありません。そう言ってしまうと、製作者に申し訳ありませんが、実は、2つとも鉄製のブックエンドなんです。そういう機能を持っているので、芸術作品と言うよりは、日用雑貨と呼んだ方が適当かも知れません。しかし、例えば片づけたテーブルの片隅に置いてみる。触ってみる。すると、ちょっといい感じがします。

 

これらは、箱根にある彫刻の森美術館のショップで購入したものです。もう、10年以上も前のことです。しかし、もうちょっといい物が欲しい。どうだろう、1万円も出せば買えるのではないか。いやいや、そんなケチなことは考えないで、3万円位は出してもいいのではないか。レプリカでいい。ただ、日用雑貨ではなく、芸術作品のレプリカが欲しい。そう思い始めると居ても立っても居られなくなり、8月6日に箱根まで出掛けて来たのです。

 

月曜だというのに、大変な人出でした。また、半数以上は外国の方々だったような気がします。チケット売り場で受け取ったガイドマップを片手に、まずは、ピカソ館を目指す。そこにはピカソの作成した多彩な作品群があり、改めてピカソの才能に敬服させられます。中には、狂気の感じられる作品もありました。しかし、私が一番魅力を感じたのは、陶器だったのです。肉厚で、色鮮やかな文様の描かれた、花瓶、皿、そして壺などがあった。そこには、物と人間の豊かな関係性が表現されている。物に関わろうとする人間の豊かな想像力が込められている。

 

そこで私はふと、ペルーの古代陶器を思い出したのでした。幼少期のゴーギャンが接していた、古代人が生み出した原始芸術の数々。そこに通ずる何かを、ピカソが製作した陶器の中に見いだしていたのです。そうだ、ゴーギャンピカソは繋がっている。二人とも、原始芸術に通底している。

 

それにしてもピカソのあの壺、一つ欲しいものだ、などと思いながらピカソ館を出ると近くにカフェがあって、そこの2階が「緑陰ギャラリー」と呼ばれる展示場になっている。モディリアニが作成した木彫りが目に止まる。あの画家のモディリアニだろうか、と思った訳ですが、その木に彫られた人の顔も縦に長いんです。やはり、あのモディリアニに違いない。更に進むと、今度は地面と水平に置かれた作品が目に飛び込んでくる。それは、シングルベッド程の大きさで、黒っぽい地面のような空間があって、その上に小さなオブジェが点々と置かれている。見た瞬間、私は「箱庭だ」と思ったのでした。あのユング派が箱庭療法に用いている箱庭ですね。それと同じ構造をこの作品は持っている、と思った訳です。手前にマッチ箱程の立方体があるのですが、見ると細かな階段がついているんです。その階段の小ささから、逆にそのシングルベッド程の空間が、とても広大であることに気付かされる。大分離れた所に老婆が一人椅子に座っている。ラバのような動物が一匹立っている。更に奥には、抽象的な形をした大きなオブジェがある。恐縮ながらこの作品の作者名は失念してしまいましたが、作品タイトルは「古代への夢」というものでした。作者の気持ちが、私には良く分かるような気がしました。

 

この年になって、やっと美術の本質の一端が見えてきた。そんな淡い満足感に浸りながら、汗だくの体に鞭打って、私は、最後の建物に到着したのでした。しかし、私にはまだ、重要なイベントが残っている。はやる気持ちを抑えながら、土産物売り場に近づく。遠目にも、幾体ものブロンズ像の並んでいることが分かる。良さそうなものがありそうだ。足早に近づき、その価格を確認する。えっ! カンマが打たれていないので、数字が見にくいのです。一、十、百、千・・・。108万円!(消費税込み) 絶句!

 

それは高さ40センチ位のものだったのですが、隣にもう少し小さいものもあった。それでも、価格は40万円程でした。

 

多分、こういうことなんだろうと思います。ブロンズというのは、必ずしもオリジナルが一体という訳ではない。同じ形のものを作者がいくつか作って、販売している。それらは全て本物で、多分、どこかにシリアルナンバーが打たれている。もちろん、芸術作品には著作権だとか、意匠権という権利があるので、勝手にレプリカを作る訳にはいかない。現実には贋作やレプリカも多々、流通しているに違いありませんが、それらは芸術家の権利を侵害している。もちろん、彫刻の森美術館のような一流の団体で、贋作などは扱わない。

 

当分、私はブックエンドで我慢するしかなさそうだ。そう思いながら、私はうなだれて帰路についたのでした。