文化領域論

(No.196 ~ No.228)

No. 215 第10章: 文化総論(その1)

 

1.経済の起源

 

本稿の第6章で“物質系”について述べましたが、その中の“機能”という項目が、やがて経済を生む。そして、“呪術”という項目が、科学につながっていく。そういう関係にあるのだろうと思うのです。項目を並べてみましょう。

 

物質系
1. 機能・・・経済
2. 呪術・・・科学
3. 空間表現
4. 象徴

 

人間は、古代から物に機能を付与してきました。例えば石器時代には、鋭利な断面を有している石を使って、又は石を割って鋭利な断面を作り出し、獲物の肉を切り分けていた。やがて、貝殻をアクセサリーとして身に付けたり、小石に穴を開け、ヒモを通してネックレスを作った。このように、物に機能を持たせたことから、その物が“価値”を持つようになる。

 

しかし、原始共産制の時代に、経済活動は生まれない。物は、集団の構成員によって、比較的平等に分配されていたからです。従って、原始共産制の時代においては、所有権という概念すら、存在しなかったはずです。

 

厳密にいつの時代から始まったと言うことはできませんが、狩猟採集を生業としていた時期のある時点で、“所有”という概念が生まれたのだろうと思います。獲物の肉であれば、これは平等に分配をしなければ、女子供が生きていけない。だから、分配された。他方、貝殻のアクセサリーであれば、製作者はそれを独占的に身に付けていたいと思ったに違いない。また、所有できると思えばこそ、それを作ろうという意欲も湧いてきたのだろうと思います。

 

物に機能が付与され、価値が生まれ、所有という概念が生まれ、そこで初めて経済活動が誕生する。そして、人間が最初に行った経済的な行為は、“贈与”だと思われます。これは原則として、相手方からの反対給付を期待せずに、価値のある物をプレゼントすることです。文化人類学の文献を見ますと、無文字社会において、いくつもの“贈与”に関する事例が観察されています。これらの中には、ささやかなプレゼントから、ちょっと想像を絶する程、大規模なものまであります。ささやかなプレゼントであれば、それは人間関係の円滑化を図るという目的が想定されますが、大規模なものとなると、その理由を推し量ることは困難です。富の平準化を目的として、暗黙裡にそういう風習が生まれた、ということもあるでしょう。例えば、何かのイベントにかこつけて、集落の全員に食料をふるまうという事例などが、これに当たります。また、部族間で贈与を行うという事例もありますが、これらの大規模な贈与は、自らの部族の経済的な優位性を誇示するために行っていたのではないでしょうか。俺たちは、こんなに富を持っている。だから、俺たちを攻撃しようなどと考えるな、ということです。

 

贈与の次に生まれたのが、“交換”ではないかと思います。典型的な例としては、海の幸と山の幸を交換する。この例のように、交換が成立するためには、食物の保存、定住、移動などの条件が必要です。よって“交換”は、農耕・牧畜の時代に生まれた経済行為だと思います。

 

やがて、人間は“貨幣”なるものを発明する。貨幣が生まれて、初めて“売買”という経済行為が成立する。

 

このように、物に機能を付与したところから始まって、贈与、交換、売買と経済活動が発展してきたのだと思うのです。

 

2.科学の起源

 

第6章で、呪術と漢方薬について述べました。要約しますと、未だクスリというものがなかった時代でも、人々は病気や怪我に苦しんでいた。何とか痛みを止めたいと願う。そこで、呪文を唱えたり、様々な植物に効能があると信じて、患部に当てたり、煎じて飲んだりしていた。これが呪術です。そして、そういう経験を長い間繰り返していると、偶然、痛みが治まったりする事例が出てくる。理由は分からないが、効果が認められる。そういう経験を体系化することによって、漢方薬が生まれたのではないか。すなわち、呪術がクスリの起源である、という話です。実際、かつてのイワム族など、病気は呪術で治すというのが常識だったようです。

 

上記の話に似ているのですが、もっと大規模な報告もあります。錬金術です。(参考文献/人格心理学/大山泰宏/放送大学教育振興会/2015)

 

錬金術というのは、ご存知の方も多いと思いますが、これは価値の低い金属を加工し、金を作り出すというものです。もちろん、そんなことはできません。できないのですが、これに真剣に取り組んだ人々が西洋にいた。多分、既存のキリスト教が示した世界観に対するアンチテーゼとして、このような思想が生まれたのではないでしょうか。そして、錬金術は黒魔術の一種として認識され、キリスト教徒から忌み嫌われ、西洋の歴史から葬り去られようとした。しかし、そこにスポットライトを当てようとする人物が現われる。なんと、それがユングだったんですね。錬金術は、決して金を生み出したりはしなかった。そのどうにもならない現実に直面し、錬金術師たちは自らのメンタリティの変革を実現したというのです。ユングは、その心理的な働きに注目し、この錬金術師たちのメンタリティが後世の自然科学を生んだと考えたようです。

 

メンタリティに関する話は別として、錬金術、すなわち呪術から科学へとつながる流れは、上に私が記した呪術から漢方薬が生まれたという話に通ずるのではないでしょうか。

 

上記の認識に基づき、私は、経済も科学も、文化が生み出した一つの類型であると考えるのです。

 

この章、続く