文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 231 憲法の構成要素(その2)

 

立憲主義の歴史的な変遷について、文献1は次のように説明しています。

 

1.絶対王政・・・立憲主義が存在しない状態。

 

2.制限君主制(=立憲君主制)・・・国王が参加する議会が、立法権を持つ。

 

3.二元型議員内閣制(18世紀末頃の欧州)・・・国王と議会が、それぞれに内閣を統治。

 

  国王 → 内閣 ← 議会

 

4.一元型議員内閣制(19世紀後半の欧州)・・・議会が内閣を統治する。

 

  議会 → 内閣

 

やはり、長い歴史のあることが分かります。さて、次に憲法の構成要素としては、民主主義を挙げることができます。民(たみ)が主(あるじ)であるとするこの考え方は、国民主権とか、主権在民とも呼ばれるものです。文献1は「近代立憲主義の基本原理として、①自由の保障、②法の支配、③権力分立、④人民主権、を指摘することができる」と述べており、人民主権(民主主義)は立憲主義の構成要素であると捉えているようです。しかし、文献2は、立憲主義と民主主義を明確に区別し、両者が対立することすらある、と述べています。

 

例えば、選挙によって多数の支持を得た与党が国会で憲法違反の法律を制定したとしましょう。民主主義をベースに考えますと、国民の支持を得ているのだからその法律は有効だ、ということになります。反対に立憲主義で考えますと、あくまでも三権分立が大原則ですので、裁判が提起された場合、最高裁はかかる法律が憲法に反するとの判決を下さなければなりません。これは明確に憲法81条(最高裁判所の法令等審査権)に書いてあります。(現実には、最高裁はこのような違憲審査制に極めて消極的です。この点は、いつか検討してみたいと思っております。)このように、民主主義と立憲主義は対立する場合があるし、「歴史上も、立憲主義と民主主義は別のことがらだった。」と文献2の樋口先生は述べておられます。

 

憲法学におきましては、良く「権力からの自由」と「権力への自由」ということが問題とされます。まず「権力からの自由」、すなわち国家による私的領域への侵害を防止しようとする考え方は、立憲主義だと言える。表現の自由が侵害されれば、それは憲法違反だ、と主張できる。他方、「権力への自由」ということを考えれば、それは国民主権なので、国民は等しく選挙において投票することができるはずだ、ということになる。このように考えますと、やはり両者は明確に区別をしておいた方が良いのではないでしょうか。

 

権力からの自由・・・立憲主義
権力への自由・・・・民主主義(選挙、国民投票などの参政権

 

さて、民主主義の歴史的な変遷について、文献1は次のように説明しています。

 

1.中世ゲルマン法思想・・・国王といえども、客観的な正義に従わなければならない。そして、客観的な正義とは、慣習法のことであって、それは裁判において発見されるものだ。国王が慣習法に反した場合、人民は抵抗権を行使することができる。

 

2.ローマ法・・・法とは、皇帝の意思、命令によって制定される。これが絶対王政ということになります。

 

3.統治契約論・・・神は、人民に主権を与えている。そして、人民がその権限を国王に委任しているのである。この委任関係は、服従契約として認識される。国王がこの服従契約に違反した場合、人民は抵抗権を行使できる。

 

  神 → 人民 → 国王

 

4.社会契約論・・・人は最初、社会成立以前の「自然状態」において自然権を有していたが、その自然権をよりよく保障するため、契約により社会を形成し、政府を設立して権力を信託する。政府は人々の自然権を侵害することは許されず、侵害した場合には、抵抗権あるいは革命が正当化される。

 

こちらにも長い歴史がありますが、なんとか絶対王政を打破しようとした先人たちの知恵を見ることができます。

 

日本国憲法の構成要素として、ここまで象徴、立憲、民主の3項目を見てきた訳ですが、最後に平和主義を挙げたいと思います。私がここまで勉強して範囲では、この平和主義に長い歴史はない。どうやら、2度に渡る世界大戦を経験し、人々はこの考え方に辿り着いたようです。例えば、明治憲法に平和主義は謳われていません。

 

では、まとめてみましょう。

 

日本国憲法を構成する4要素

 

1.象徴
2.立憲主義(人権保障と権力分立)
3.民主主義
4.平和主義

 

以上の区分を日本国憲法に照らし合わせてみます。

 

1.象徴
 第1章 天皇

2.立憲主義
 第3章 国民の権利及び義務
 第4章 国会
 第5章 内閣
 第6章 司法
 第7章 財政
 第8章 地方自治
 第10章 最高法規

3.民主主義
 第1章 第1条 (主権の存する日本国民)
 第3章 第15条 (普通選挙
 第9章 改正 (国民投票

4.平和主義
 第2章 戦争の放棄

 

いかがでしょうか。うまく区分できたように思います。ちなみに地方自治ですが、これも権力分立が目的だと言えます。三権分立(司法、行政、立法)を横の分立だと見れば、地方分権は縦の分立だと言えます。

 

(参考文献)
文献1:立憲主義日本国憲法 第4版/高橋和之有斐閣/2017
文献2:抑止力としての憲法樋口陽一岩波書店/2017