文化領域論

(No.196 ~ No.228)

パリの反乱者たち

昨日の未明、入管法の改正案が参院で可決されてしまいました。私は、この法案に反対でした。主な理由は、次の3点です。

 

第1に、外国人労働者が増えれば、日本人労働者の賃金が低下する。政府は、そんなことはないと言っているようですが、需要と供給の関係で、必ず下げ圧力が掛かる。昔、働く者は皆、正社員だった。それがまず、派遣という形態が生まれた。但し、その職種は通訳などの専門能力を有している職種に限られていたはずです。やがて、その職種に関する枠組みが取り払われた。しかし、3年以上同じ仕事に従事した派遣労働者には、正社員になる道が開かれていた。今はその可能性も失われ、働く人の約4割が非正規従業員になった。賃金は、なかなか上がらない。やっと、団塊の世代が引退する時期を迎え、就職率は向上した。今度こそ、賃金レベルを上げるタイミングがやって来た。そのはずでした。このタイミングで、外国人労働者を大量に受け入れるとは・・・。日本の人口は、約1億2千万人。輸出への依存度は、わずか15%程度しかない。日本は内需主導で、ある程度自立した経済を運営していけるだけの規模を持っている。そして、内需を維持、向上させるために必要なことは、賃金水準を上げることだ。そのことは、経団連の偉い人たちだって、分かっているはずなのに、残念です。

 

第2に、今日まで、日本という国は外国人労働者の人権を侵害し続けてきた。過去1年で、その失踪者は7千人を超え、過去3年で69人の方々がお亡くなりになった。中には6人の自殺者がおり、他の死因の中に“凍死”というものまであった。言葉も分からず、地理的な勘も働かない異国の地で、失踪せざるを得なかった人々の事情を想像しますと、胸が痛みます。中には、妊娠が理由で、失踪せざるを得なかった女性もおられるそうです。11月22日の衆議院法務委員会の参考人質疑で、専門家の方が貴重な意見を述べておられた。

 

最低賃金未満の賃金しか支払っていない外国人労働者の雇用主としては、農家の男性などがおられる。ほとんどの皆さんは、最初は、普通の農家のおじさんなんです。それが何かのきっかけで、例えば、“入管を呼ぶぞ”などと発言してしまう。すると、外国人は恐怖心からびくびくするようになる。もちろん外国人労働者は、母国で借金をし、経済的に困窮する事情があって、日本に来ている。だから、母国へ強制的に送還させられるのは困る訳です。そういうことがあると、普通の農家のおじさんの態度が一変するんです。そして彼らは、外国人労働者のことを“うちの子”と呼び始める。そして、暴力、セクハラ、パワハラが始まるんです。」

 

序列意識が生まれるんですね。自分は偉いんだ、と勘違いしてしまう。昔、こんな話を聞いたことがあります。農協の一行が、慰安旅行で飛行機に乗る。多くの人たちが、飛行機に乗るのは初めてだ。そして、綺麗なスチュワーデスの方々が、丁重に扱ってくれる。すると、農協のおじさんたちは、自分が偉くなったと勘違いして、若しくは舞い上がってしまって、スチュワーデスにパワハラまがいの言動を始める。悲しいですが、これが日本の民度だと思うのです。

 

第3の理由としては、国会の審議を聞いている限り、日本人の側に“移民”を受け入れる覚悟がない、ということです。安倍総理はあくまでも“移民”ではないと主張しているようですが、1年以上日本に滞在する外国人の方々は“移民”と呼ぶべきだと思います。今回の制度でも、1年毎の手続更新によって、家族帯同で日本に永住される方々も出てきます。移民の方々と共生できれば、それに越したことはありませんが、そのためには受け入れる日本の側に覚悟が必要だと思うのです。言語の問題もありますが、その他に文化や宗教の問題だってあります。

 

そんなことを考えながら、昨夜、YouTubeを見ておりましたら、刺激的な画像が目に入りました。パリです。日本のメディアでは、“デモ”と表現されていますが、実態は“暴動”と呼ぶべきものです。凱旋門が映っていました。シャンゼリゼ通りでしょうか。辺りは白煙に包まれ、パンパンという乾いた音が鳴り響く。あちこちで、炎が上がり、黄色いベストを着た市民と機動隊が抗争を繰り広げている。機動隊の側は、催涙弾、ゴム弾、放水などで市民を攻撃し、市民の側は投石などによって抵抗している。催涙弾を投げ返す人たちもいる。一部の暴徒と化した市民は、商店のガラスを割り、自動車に火を付ける。機動隊の前に立ちはだかる市民も少なくない。流石、革命の国だけあって、腹が座っているなあ、などと思ったのですが、それにしても、彼らは何をそんなに怒っているのか。

 

12月8日の状況について、BBCニュースは次のように報じていました。全仏で12万5千人が抗議行動に参加し、うち1万人がパリに集結した。全仏で約千人が拘束され、126人が負傷した。但し、負傷の程度は深刻ではないとのこと。抗議行動は、毎週土曜日に行われ、8日で4回目である。

 

市民の側の主張は、概ね、以下の通りだそうです。

 

軽油、ガソリンの増税をするな。
・給料を上げろ。
・税金を下げろ。
・年金の支給額を上げろ。
・学費を下げろ。
・金持ちばかりを優遇するマクロン大統領は、辞任しろ。
・金持ちに対する富裕税を復活しろ。

 

経済的な理由ばかりであり、そこにイデオロギーは関係していないように見えます。別の言い方をしますと、イデオロギーで争っている場合は、まだ余裕がある。市民の生活が本当に困窮した場合は階級闘争が生じる、ということではないでしょうか。フランスも、本当に貧しくなった。

 

ただ、BBCニュースによれば、上に記した市民の主張点の背景には移民問題がある、とのことです。そもそも、世界の人口については、国連が統計を取っている。そして、少子高齢化が進んでいる国と地域としては、EU諸国、アメリカ、そして日本がある。これらの国々に対して国連は、移民を受け入れることを推奨している。

 

別の情報源は、次のように述べていました。かつてフランスは、アフリカに植民地を持っていた。そのため、フランスには今もアフリカ系の移民がいる。加えて、シリアなどからの難民も急増している。結果として、それら移民のために支出される費用の一部をフランス人が負担する結果となり、経済的な困窮を招いている。

 

思えば、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)という言葉が流行って、新興国が経済力を伸長させ始めた頃から、価格競争が激化したのではないか。中国は“世界の工場”と呼ばれ、反射的効果として、アメリカにはpoor white(貧しい白人たち)が誕生した。フランスという国家は、高額の税金を徴収するが、それに見合うだけのサービスを国民に提供できなくなった。

 

グローバリズムの結果、デフレ傾向が強まり、先進国における労働者の賃金水準も頭打ちとなった。他方、富裕層は政権に対する影響力を強め、格差が拡大した。もちろん、社会主義的な傾向のあるフランスと日本を単純に比較する訳には行きません。しかし、上記の2点(低賃金と格差拡大)については、日本とフランスに共通しているように思います。