文化認識論

(世界を記述する。Since Oct. 2019)

進捗状況のご報告(その2)

非公式原稿とは言え、前回の原稿において、私は2つのミスを犯してしまいました。これは、訂正してお詫び申し上げるしかありません。

 

1つ目のミスは、ホッブスの表記ですが、正しくは最後の“ス”が“ズ”と濁る。ホッブズが正しい。2つ目のミスは、少し前提について説明する必要があります。

 

まず、トマス・ホッブズですが、大変誤解され易い人だったようで、主権者(国家権力)には抵抗すべきではない、と主張した。ここからホッブズは絶対主義者であるという解釈が生まれ、それがカール・シュミット(1888~1985)を経てナチズムにつながった。この解釈は、日本では第二次世界大戦の敗戦時まで続いた。

 

ホッブズ → シュミット → ナチズム

 

他方、上記の理解は誤りであって、ホッブズは人間の自由、平等、平和を説き、後に確立される近代民主主義の基礎を築いた。そして、ホッブズの正当な後継者は、ロックであり、ルソーである、とする説があります。文献6と文献8はこの立場を明確に支持しており、文献7はこの説を前提としているように読めます。

 

ホッブズ → ロック → ルソー

 

当然、ナチズムを支えたシュミットを支持する訳にはいきませんが、前回の原稿で私が引用させていただいた以下の箇所は、シュミットの文章を樋口氏が引用したのであって、樋口氏の言葉ではないことが分かりました。お詫びして訂正させていただきます。

 

“主権を「その権力の頂点に達」するところまで導いたホッブズこそ「神学の世紀たる16世紀から形而上学の世紀たる17世紀への推移」「西欧合理主義の英雄時代」の中心に座を占める先達だったのである。” → シュミットが書いた文章

 

なお、文献6におきましては、日本国憲法へ多大な影響を与えた近代自然主義思想の創設者として、ホッブズ、ロック、ルソーの3名を強調しています。また文献8は、ホッブズ、ロック、ルソー、カントの4名を取り上げています。少なくとも両文献に共通するホッブズ、ロック、ルソーが、キーパーソンであることに間違いはなさそうです。つきましては、今後、このブログで取り上げる予定として、ルソーは追加する必要がある。更に、三権分立を説いたモンテスキューも加える必要があろうということで、この2人をリストに加えることにしました。

 

マルティン・ルター(1483~1546)
ジャン・カルヴァン(1509~1564)
・トマス・ホッブズ(1588~1679)
ジョン・ロック(1632~1704)
モンテスキュー(1689~1755)
ジャン=ジャック・ルソー(1712~1778)

 

ルソーまで行くと、その後は歴史的出来事として、アメリカの独立戦争フランス革命へとつながっていくことになります。

 

(参考文献)
文献6: ホッブズ/田中浩/清水書院/2006
文献7: 抑止力としての憲法樋口陽一岩波書店/2017
文献8: 法とは何か 法思想史入門/長谷部恭男/河出ブックス/2015

 

思想史からすれば、ルソーの後に来るのは、ドイツ観念論と呼ばれるカントと、それに続くヘーゲルということになりそうです。このブログを以前からお読みいただいている方はご記憶にあるかも知れませんが、私にとってカントは鬼門なのです。それは、気負って「純粋理性批判」を読もうとして、挫折した経験があるからです。「哲学中辞典」なるものまで購入して解読しようと挑戦したのですが、とにかく難しい。何を言っているのか分からない。分かりもしないのに、苦痛に耐えて読み続けることに意味はない。そう思ったのでした。

 

しかし文献6では、カントとヘーゲルを批判している。ポイントとなる箇所を引用します。

 

“カントやヘーゲルのような「偉大な哲学者」たちも、ホッブズ、ロック、ルソー的な近代自然法の原理を真に理解することができなかったのである。そして、そのことこそ、第二帝政滅亡後にヴァイマル共和国が創設されたにもかかわらず、その近代化が果たされず、ヒトラー独裁国家を生み出した原因であった、と思われる。”

 

加えて、文献8においても、カントは批判されています。まずカントは、何かを行動する際の判断基準として、誰もが同じ行動を取った場合に、その行動はどう評価されるか、ということを考えるべきだ、と主張した。例えば、誰もが嘘をついたとしたら、社会は混乱する。よって、嘘をついてはいけない。しかし、現実には様々な場面で、無数の選択肢がある訳で、どの選択肢をチョイスすべきなのか、ということにカントの考え方は対応していない。更に、何か行動を起こす際に、いちいちそんなことを考えてはいられないはずだ。なるほど、カントも間違うことがある。そう思うと、ちょっとカントにも親近感が沸いてくるのです。

 

哲学史に聳える最高峰」。私が持っている「純粋理性批判」の帯には、そう書かれています。私には手の届かない峰の頂に、カントがいる。そう思ってきたのですが、意外とそうでもないのかも知れない。基礎的な知識もなく、いきなりカントを読んだから、分からなくて当然だったのではないか。もしかすると、上に列記したルターからルソーに至る6人の思想家たちを勉強した後であれば、私にも、理解できるのではないか。そんな気もしてきました。なお、文献6や文献8は、カントの記した一部の著作を批判しているのであって、カント哲学そのものを批判している訳ではないと思います。

 

例えばカントは「人間性というねじ曲がった素材から完全にまっすぐなものを作り出すことはできない」(文献8)と述べたそうですが、これは私がこのブログで述べた「全ての国家と思想家は、発展途上である」という主張に似ていないでしょうか?

 

私は文化領域論の中で、「経験がメンタリティを生み、メンタリティが文化を誕生させる」と述べましたが、この前段は哲学上の“経験主義”に似ている。これは「全ての認識の源泉は経験にある」とする立場です。カント以前に、そういう考え方があった。そこでカントは、経験に基づくんじゃ普遍性がないしそんな認識は信用できない、と考えたに違いない。そして、経験やその他のバイアスを排除した認識によって構築される理性というものを考えた。その理性をカントは「純粋理性」と呼んだのではないか。

 

そんなことを考えながら、あらためて「純粋理性批判」の頁をめくってみると、前回よりは何となく分かるんですね。少なくとも、分かるような気になってくる。興味は尽きませんが、カントはちょっとペンディングにしておこうと思います。

 

話はルターに戻ります。結局、ルターの功績はどうだったのか。日本国憲法に照らして考えてみます。まず、政教分離については、明確に主張しました。よって、これは「〇」です。政教分離というのは、権力分立でもある。但し、ルターは権力分立の制度論にまでは至っていない。よって「△」。平等という概念について、宗教の世界においては「万人祭司」ということを明確に主張したのですが、世俗(宗教以外)の世界における職業については「神の配剤」だから文句を言うな、と主張した。よって、これは「△」。

 

政教分離・・・〇
権力分立・・・△
平 等・・・・△

 

「そんな簡単なものではない!」と学者の方からはお叱りを受けそうですが、どう考えても、上のように記すと分かり易い。表記方法はもう少し考えるとして、何か、早見表のようなものは作れないだろうか。そんなことも考えています。

 

そう言えば、憲法学者という職業の方々についても、考えてみました。憲法学にも学閥があって、東大が強いそうです。例えば、樋口氏、長谷部氏なども東大を卒業されています。彼らは18才頃東大に入って、以後、40年以上の長きに渡って憲法の研究をされている。英語の他にドイツ語やフランス語もマスターされている。日本語に翻訳されていない文献は、原書にあたる。それどころか、専門書の翻訳も手掛けている。研究成果は学会で発表し、多くの文献を公刊されている。それはもう、とても立派なことだと思うのです。そこで、尊敬の念を込めて“先生”という敬称を付けさせていただいたのです。

 

他方私はと言うと、人に自慢できるような経歴は何もありません。約37年間の長きに渡ってサラリーマンをし、地面を這いつくばるような人生経験を積んでまいりました。では、憲法学者と私とどちらが偉いのかと考える訳ですが、それは平等なのではないかと。学者の方々の憲法に関する研究のご努力とその成果には、当然、敬意を持っています。しかし、私も一生懸命に生きてきた訳で、例えば、ロック・ミュージックの歴史やジョン・レノンに関する知識であれば、そこいらの憲法学者に負けることはない。無神論者である私は、神の下に皆平等だと主張するつもりはありません。そうではなくて、法の下に皆、平等だと思うのです。その証拠に、憲法14条1項にこう書いてあります。

 

「すべて国民は、法の下に平等であって・・・(以下略)」

 

最後になりますが、本稿(憲法の声)を書き進めるに当たっては、思想家や出来事の先後関係を把握しておく必要があります。よって、年表を作りながら作業を進めるのが便利だと思います。「憲法年表」と称して、作り始めたものがありますので、以下に添付しておきます。これは今後、アップデートする予定です。なお、ユングやパースが記載されているのは、私の個人的な興味からで、憲法に関係はありません。今後、例えばジョン・レノンの生年月日が追記されるかも知れません!

 

<憲法年表>

1215.06.19   イギリスにおいて、マグナカルタが制定される。

1473.02.19   ニコラウス・コペルニクス誕生(~1543.05.24)
       1510年、同人誌にて地動説を公表

1483.11.10   マルティン・ルター誕生(~1546.02.18)

1509.07.10   ジャン・カルヴァン誕生(~1564.05.27)

1517.10.31   宗教改革 ルター 95か条の提題

1588.04.05   トマス・ホッブズ誕生(~1679.12.04)

1632.08.29   ジョン・ロック誕生(~1704.10.28)

1642      清教徒革命(ピューリタン革命 ~1649)

1643.01.04   アイザック・ニュートン誕生(~1727.03.31)

1651      ホッブズが「リヴァイアサン」を出版

1688      名誉革命

1689.01.18   モンテスキュー誕生(~1755.02.10)

1712.06.28   ジャン=ジャック・ルソー誕生(~1778.07.02)

1724.04.22   イマヌエル・カント誕生(~1804.02.12)

1748      モンテスキューが「法の精神」を出版し、三権分立を提唱。

1762      ルソー 社会契約論が公刊される。

1770.08.27   フリードリヒ・ヘーゲル誕生(~1831.11.14)

1776.07.04   アメリカ独立宣言

1787.09.17   アメリカ合衆国憲法 作成

1788      アメリカ合衆国憲法 発効(世界最古の成文憲法

1789.02.26   フランス 人権宣言採択

1839.09.10   チャールズ・サンダース・パース誕生(~1914.04.19)

1859.11.24   ダーウィンが「種の起源」を発表

1864.04.21   マックス・ヴェーバー誕生(~1920.06.14 享年56才)

1874     (明治7年)自由民権運動

1875.07.26   C. G. ユング誕生(~1961.06.06)

1889.02.11   (明治22年大日本帝国憲法 公布

1890.11.29   (明治23年大日本帝国憲法 施行

1914.07.28   第一次世界大戦 勃発

1917      ロシア革命

1918.11.11   第一次世界大戦 終結

1919.06.28   ヴェルサイユ条約締結

1919.08.11   ドイツがヴァイマル(ワイマール)憲法を制定。(公布、施行は14日)

1920.01.10   国際連盟 発足

1933.03.23   ドイツが全権委任法を制定。ヒトラー率いる政府に無制限の立法権付与。

1939.09.01   第二次世界大戦 勃発

1945.04.30   ヒトラー自殺

1945.05.09   ドイツ国防軍降伏

1945.08.06   広島へ原爆投下

1945.08.09   長崎へ原爆投下

1945.07.26   (昭和20年)ポツダム宣言

1945.08.14   (昭和20年)日本がポツダム宣言を受諾
       第2次世界大戦終結

1945.10.24   国際連合 設立

1946.11.03   (昭和21年) 日本国憲法 公布

1947.05.03   (昭和22年) 日本国憲法 施行

1950.06.25   (昭和25年) 朝鮮戦争勃発

1950.08.10   (昭和25年) 警察予備隊 設置

1951.09.08   (昭和26年) 日米安全保障条約締結

1952.10.15   (昭和27年) 警察予備隊を保安隊へ改組

1954.07.01   (昭和29年) 自衛隊設立

1994.04.06   ルワンダ ジェノサイド

2015.09.17   (平成27年) 平和安全法制(戦争法) 制定。

2016.03.29   (平成28年) 平和安全法制(戦争法) 施行。

以 上