文化認識論

(世界を記述する。Since Oct. 2019)

政党の立ち位置(その8)

少し前の記事で、政府の日銀に対する借金は返済する必要がない、という説を紹介しましたが、どうやらこの説を最初に唱えたのはアメリカのステファニー・ケルトンという人のようです。(ネットで検索すれば、すぐにヒットします。)また、この説は一般にModern Monetary Theory(“MMT”)(現代金融理論)と呼ばれているそうです。ケルトン氏は、民主党のサンダース議員の経済顧問に就任するとのこと。ちなみに、イギリス労働党の党首、ジェレミー・コービン氏は、政権を奪取した場合、大量に国債を発行し、国民のためにその資金を投入すると言明しているそうです。国民のための投資とは、武器を買ったりするのではなく、日本になぞらえて言えば、保育園を作るとか、介護士、保育士の給与を上げるとか、学費を下げるとか、そういうことだろうと思います。

 

世界の潮流として、MMTが普及しつつある。日本の自民党の中にも、この理論に賛同している議員はいるようですが、なかなか声を上げられずにいる。最も積極的にこの説を唱えているのは、“れいわ新選組”を立ち上げた山本太郎議員です。

 

日本は、国債を発行したものの、そこで得た資金を投資しないので、折角増加したマネーストックが、銀行と企業の内部留保に滞っており、回っていかない。政府は、資金を国民のために積極的に用いるべきではないでしょうか。ましてや、消費税増税など、とんでもない。ケルトン氏もインタビューに答えて、日本は消費税を増税すべきではないと言っている。

 

高齢の政治家や評論家、歴史のある政党というのは、なかなか新しい理論に賛同し難い事情がある。過去の発言や政策との整合性が取れなくなるからです。しかし、君子は豹変すべきではないでしょうか。

 

ところで、歴史を振り返りますと、もし、1950年に朝鮮戦争が勃発しなかったら、と思わずにいられません。そうであれば、現在の日本の民主主義は、もっと進化していた可能性がある。日本と日本人は戦争を振り返り、反省し、例えばドイツのように歴史から学んでいたかも知れない。

 

他方、憲法との関係も、考えずにはいられません。日本国憲法が制定されたのが1946年。朝鮮戦争が1950年。わずか、4年の違いしかありません。もし、憲法の制定があと5年遅れていたとすれば、朝鮮戦争を経験した米軍、とりわけGHQは、平和主義の9条を認めなかった可能性がある。いずれにせよ、歴史とは人々の意志と偶然が織りなすドラマだと思いますが、私たちはそんなドラマの中で生きている。

 

話は飛びますが、皆様は何万匹という魚の群れが、近づくダイバーなどに反応して、巨大な群れの形をダイナミックに変化させる影像を見たことはないでしょうか。群れの形を変化させはするものの、魚たちは決して群れから離れない。とても優雅な映像だと思うのですが、何故、そのような現象が起こるのか。何かの本で読んだ記憶があるのですが、その原理は簡単なのです。個々の魚は、まず、外敵から逃げようとする。そして、群れの中心に移動しようとする。原理は、この2つです。外敵から逃げるのは、当然のこととして、では何故群れの中心に移動しようとするのか。それは、外敵が一度に捕食する魚の数には限度があって、ある程度の数を捕食した外敵は、それ以上、捕食しようとしない。すなわち、群れの外側にいる魚は捕獲され易く、群れの中央にいる魚は捕食されにくい。生存率が上がる。

 

一見、見事に統率されているように見える魚の群れは、実は、このように簡単な原理に従って動いているのです。2つの原理をインプットして、コンピューターでシミュレーションをしてみれば、同様の動きを再現できるに違いありません。

 

何を言いたいのかと言えば、同様の原理によって、日本の支配層はこの国を統治して来たのではないか、ということなのです。群れの中心を“権力”という言葉に置き換えてもいい。作家の五木寛之氏が繰り返し述べている話に、こんなのがあります。五木氏は、大陸で敗戦を迎えた。すると軍人たちは、一般の庶民には大陸に留まれと指示をし、自分たちだけ先に日本に帰ってしまったというのです。同じような話は、沢山あります。お前たちは、南方の島で敵と戦え。軍部は、そう指示をする。しかし、食料を支給しなかったために、南方の島に残された兵隊さんたちは、敵と戦う前に餓死してしまったとか・・・。

 

群れの中心部に移動しようとする魚の行動を、人間の世界では「自発的隷従」と言い換えることができる。何とか、権力の中枢に近づこうとする。最近の言葉に言い換えるならば、「忖度」と言っても良い。立憲民主党川田龍平氏の発案だと思うのですが、「今だけ、金だけ、自分だけ」というのもあります。なかなか言い得て妙だなあ、と思う訳です。

 

そもそも、「自発的隷従」という言葉は、16世紀のフランス人が発案した言葉なので、この傾向は日本人に固有のもの、ということはありません。もっと、普遍的な現象だと思いますが、1つ言えるのは、この傾向に陥ってしまう人は既得権を持っているエリートに多いということです。

 

例えば、今をときめく(?)カルロス・ゴーン氏ですが、彼が19年前日本にやって来た時、テレビ番組でこういうのがありました。日産の従業員が数人登場するのですが、彼らは皆、自らをゴーン・チルドレンと名乗って、業務改革に精励しているというのです。彼らは皆、異口同音にゴーン氏を絶賛する。見ていた私は、あきれてしまいました。どうせ、広報か人事が仕組んだヤラセだろうと思ったのですが、それにしても、日本人として恥ずかしくないのか。

 

エリートが、ある企業のトップに立った。それまで彼は、上司の意向を忖度することばかりに腐心してきた。そして、トップになってみると、今度は、忖度すべき上司がいない。自分の頭で考える習慣もないし、どうしたものかと思案する。そこで、仕事はコンサルタントに丸投げする。失敗すると、コンサルタントの責任にする。

 

おじいさんの代から政治家一家で、権力と既得権をガチガチに持っている人が、日本の総理大臣になった。もう誰の意向をも忖度する必要などないはずだが、トランプ大統領の意向を忖度する。

 

そんな馬鹿なと思ったあなたは、健全だと思います。

 

そして上記のような、すなわち、自分の頭では考えず、自発的隷従ばかりに気を使ってきた人が権力を握るとどうなるでしょうか。まず、説明責任を果たせない、という問題に直面します。例えば、権力に近づくため、総理の意向を忖度し、8億円もの国有地をタダ同然で森友学園に払い下げてしまった財務省。同じく、総理の意向を忖度し、加計学園獣医学部の資格を認可してしまった文科省安倍総理自身、野党から臨時国会を開けと言われても応じない。多分、安倍総理が最も嫌がっているのは、国会に出ることではないでしょうか。

 

説明責任を果たせない政治家は、何を考えるでしょうか。それは、かつてGHQから教わった3S(Sex, Screen, Sports)と呼ばれる「愚民政策」です。愚民政策の目的は何かと言うと、一般の国民が政治に興味を持たないようにすることです。若しくは、国民が簡単に嘘を鵜呑みにするように仕向けることです。プロ野球、サッカー、ゴルフ、大相撲、そしてオリンピック。トランプ大統領が、タイガー・ウッズに勲章を与えるとのことで、これはスポーツの政治利用ではないか、との議論があったようですが、安倍政権はイチローに勲章を与えようとしました。何も変わりません。(イチロー選手はこれを辞退したようですが)

 

選挙になると投票率が低いと言って問題となりますが、そんなことは当然の帰結です。何しろ政権側は、国民の目が政治に向かないよう、あの手この手を使っているのですから。元号が“令和”になったというだけで、安倍政権の支持率は9%上昇した。こうやって、目を逸らすんです。

 

戦時中の軍事政権は、戦況の悪化を隠しました。それは、政権に都合の悪い情報だったからです。日本国民にとって、最も重大な影響を及ぼすリスク情報を、政権は隠蔽したのです。では、現在の日本はどうでしょうか。私は、いくつかのリスク情報が隠蔽されているように思います。

 

1つには、第二次世界大戦で日本軍は何をしたのか。戦争責任の所在は、どこにあるのか。南京大虐殺はあったのか、なかったのか。慰安婦問題の真相は、どうだったのか。徴用工問題もあります。これらの問題は未だにくすぶっていて、それを主に韓国が指摘しています。日本政府にとっては、頭痛の種となっている。更に、戦争との関連で言えば、沖縄の問題もあります。そもそも、辺野古の基地を米軍は本当に欲しがっているのか。そんな、地盤沈下リスクのある所に基地を作って欲しいと思っているのか。

 

2つ目としては、自衛隊の問題がある。現実を直視すれば、やはり自衛隊は軍隊だと思います。軍隊を持っているのだから、その活動をどう規制するのか、憲法に定めるべきだと思います。

 

3つ目は、原発の問題。そもそも、ドイツでは既に脱原発を決めているのに、何故、日本は原発を止められないのか。いくつかの説があります。

 

既得権益説: 原子力村と呼ばれる既得権を持つ集団が、脱原発に反対している。

 

電力会社の倒産説: 原発は、電力会社の資産である。例えば、耐用年数が30年で資産計上されていたとして、それを10年で廃棄するとなると、20年分の減価償却費が損金として発生する。そうなると電力会社が倒産するので、原発は止められない。

 

核兵器技術説: 原発の技術は、核兵器の開発に流用できる。将来、日本が核兵器を開発できるようにしておくために、原発は止めない方が良い。

 

私が知っているのは、上記3つの説ですが、一体、どの説が正しいのか、若しくは3つとも正しいのか、私には分かりません。一体何故原発を止められないのか、政府には是非説明して欲しいものだと思います。

 

しかし、リスクはもう一つあります。4つ目です。これは、貧困問題です。前にも書きましたが、日本は本当に貧しくなった。そして、格差も拡大した。早く、反グローバリズムの方向に転換しないと、大変なことになる。アメリカはトランプ大統領の登場で、既に、反グローバリズムに舵を切りました。フランスではイエローベスト運動が沸き起こり、イギリスはEUを離脱しようとしている。全て、反グローバリズムの運動です。そんな中、日本だけが何故、未だに周回遅れのグローバル化に取り組んでいるのでしょうか。