文化領域論

(No.196 ~ No.228)

政党の立ち位置(その10) ポスト・グローバリズム

Wikipediaには、「グローバリズムとは、地球を一つの共同体と見なして、世界の一体化を進める思想」と定義されています。一見、良さそうに思えます。しかし、人類は既にこのチャレンジに失敗している。第1次世界大戦が起こり、人類は、国際連盟を創設しましたが、第2次世界大戦の勃発を防ぐことができませんでした。そして、第2次世界大戦の後、国際連合を作りましたが、これもうまくいかない。第2次世界大戦の戦勝国常任理事国となり、各常任理事国が拒否権を持っている。国連憲章には未だに敵国条項があり、日本などは差別されている。国連はアフリカの内戦を鎮圧しようと介入を試みましたが、結局、先進諸国の利害が絡み、うまくいかなかった。

 

様々な基準を統一しようとする動きがありましたが、これも進展しているようには見えません。例えば、日本はメトリック(メートル法)ですが、アメリカはインチを採用している。狂牛病が流行した時、アメリカは日本に牛肉の輸入を強く求めましたが、日本人はそんな牛肉を食べたいとは思わなかった。吉野家から牛丼が消えた、あの頃の話です。

 

グローバリズムだから、言語も英語に統一しようという意見がありますが、私は、日本語の中で生きてきたし、これからも他の選択肢はありません。

 

ちょっと調べてみますと、まず、1970年頃、新自由主義という考え方が登場した。これは、政府は小さい方がいい、規制は緩和して市場原理に委ねるべきだ、民営化を進めろ、という考え方です。鉄の女と呼ばれたイギリスのサッチャーアメリカのレーガン大統領。日本では中曽根康弘元総理らが、この考え方を採用したようです。

 

そして、グローバリズムという考え方が登場したのは、1992年だったようです。経済に関するルールを統一して、企業が国境を越えてビジネスを進められるようにしよう、ということになった。1995年にはWindows 95が登場し、グローバル化は一気に進んだ。電子メールというコミュニケーション手段は、時差の壁を超えた。やがて、ヒト、モノ、カネの全てが、やすやすと国境を超える時代になった。

 

そこで、グローバリズムの恩恵を被ることができるのは誰か、ということになります。例えば、一般の個人で複雑な国際手続の全てをこなし、複数の国の間でヒト、モノ、カネを動かして利潤を稼ぎ出すのは、ほぼ、不可能だと思います。すると、グローバルで活躍のできるプレイヤーというのは、大規模な多国籍企業に限定されることになる。

 

多国籍企業は、異口同音にこう言います。最適の地域で商品を開発し、最適の国で商品を製造し、最適なマーケットで商品を販売する。そして、彼らがまず注目するのは人件費の安さということになります。しばらく前に、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)が注目されましたが、言うまでもなくこれらの国々においては、人件費が安かった。しかしその後、中国よりもベトナムの方が安いなどと言われたように、多国籍企業は一貫して、賃金の安い国や地域を探し続けている。

 

表だっては言いませんが、多国籍企業がもう一つ判断基準としているのは、税金です。法人税の安い国で活動したい。彼らはそう考えている訳です。それにもあきたらない企業は、タックス・ヘイブンと呼ばれる税金の極めて安い国にペーパーカンパニーを作り、そこへ多額の資金を移動し、税逃れをしている訳です。

 

また、投資家も黙ってはいません。投資をするには、当然、その見返りを望んでいる訳で、1つには株価が上昇すること、2つ目としては、株式配当を受領することです。すると彼らは、自らの利益を確保するために妙案を思いつく。ストック・オプションです。例えば、A社の株価が千円だったとします。すると、千円でA社の株式を購入できる権利をA社の役員に付与する。そして、仮に1年後にA社の株価が1200円になったとすると、A社の役員は当該株式を1200円で売却できる。すなわち、一株当たり200円の利ザヤを稼ぐことができるのです。すると、ストック・オプションを付与された役員は、その会社の株価を上げることに血まなこになります。投資家と企業経営者の利害が一致するのです。当然、株式配当を上げると株価も上がるので、配当金も上昇する傾向となります。加えて、ストック・オプションを付与された役員は、往々にして、短期的な利益を目指す。自分が退任した後の10年後の業績なんて、関係がなくなる。

 

いつの間にか、世の中、こうなっていたんですね。これがグローバリズムの実態だと思います。

 

そして、多国籍企業や投資家たちは、以下の事柄を政府に要求するようになります。


法人税を下げろ。
・(法人税を下げるために)消費税を上げろ。
・労働者の賃金を下げろ。
・(外資が参入するために)民営化を推進しろ。
・規制を撤廃しろ。
株式配当を上げろ。

 

では、彼らはどうやって政府に圧力を掛けるのでしょうか。1つのパターンとして、こんな例が考えられます。例えばアメリカのカジノ王が、トランプ大統領に莫大な額の政治献金を行う。安倍総理が訪米すると、トランプ大統領からカジノ王を紹介される。「シンゾー、宜しくね!」という訳です。そして、日本の国会ではIR(Integrated Resort)などという聞こえの良い言葉と共に、カジノが解禁される。

 

多国籍企業と競争している日本の大企業は、できれば日本の工場を稼働し続けたい。日本で営業を続けたいと思っている。すると、価格競争で多国籍企業に勝つ必要がある。そこで、例えば経団連のような組織が、自民党に多額の献金を行った上で、多国籍企業と同じことを要求する。すなわち、法人税を下げろ、消費税を上げろ、人件費を下げろ、ということです。移民を解禁しろ、というのもつまる所は労働者の賃金を下げろということだと思います。

 

このように考えますと、安倍政権がやって来たことの理由が分かります。実際、安倍政権は多国籍企業、投資家、経団連の要求に従って、政権を運営してきたに違いありません。法人税の税率は下がり、同時に消費税率が上がって来た。労働者の4割は非正規となり、実質賃金は下がり続けている。国民は貧しくなり、若い人たちは結婚しにくくなり、少子化が進み、結果として、私のような高齢者が受給する年金も減少の一途を辿っている。

 

これがグローバリズムです! 

 

しかし、問題はそこに留まらない。それでは、多国籍企業や巨大な投資家たちが利益をあげ続けているかと言えば、実はそうではない。すなわち、どこの国でも貧富の格差が広がり、総じて国民が貧しくなった。個人消費が冷え込む。結局、多国籍企業も儲からなくなってきている。

 

今、ネットを見たところ野村ホールディングスが1004億円の赤字を出したとの記事がありました。

 

結局、一部の多国籍企業や投資家の手元にマネーが集中した。それらのマネーは行き場を失う。日本で言えば、長期に渡る低金利/マイナス金利政策によって、銀行をはじめとする金融機関は利益を得る術を失った。勢い、ハイリスク・ハイリターンの金融商品に手を出さざるを得ない。リーマンショックの時には、サブ・プライム・ローンが引き金となった訳ですが、これはアメリカの貧困層に対する住宅ローン債権を見えにくい形で織り込んだ投資信託だった。そして、デフォルトが発生し、その影響が一気に世界を駆け巡ったのです。再び、同じことが起こらないという保証は、どこにもありません。

 

経団連会長の発言を聞いておりますと、以前は、「大金持ちが暴利をむさぼろうとしている」というように見えていたのですが、どうも最近はそうでもない。本当に困った人が懇願しているように見える。「日本国内に原発を新設しろ」というのは、政府の指導に従って原発のプラント輸出を準備してきたにも関わらず、商談が一件もまとまらない。それでは企業がもたない、外国がダメなら日本国内に作らせてくれ、ということでしょう。「もう終身雇用制など維持できない」という発言も、本音なのだろうと思います。流石に「今後は福島の廃炉作業に外国人労働者も使う」という発言には首肯できませんが、経団連会長も、自ら好んで悪役になりたいと思っている訳ではない。

 

ちなみに、日本最大のトヨタでさえ、世界の時価総額ランキングでは35位まで落ちてしまった。(2018年)グローバリズム全体が困難に直面しているのは明らかですが、中でも日本の落ち込みが酷い。先進諸国の中では、ほとんど日本の一人負けが続いている。

 

多国籍企業と言っても、国境を超えた資本の移動というのは、結局、難しいと思います。日産自動車の例を見れば、それは明らかです。ルノーは日産の43.4%の株式を保有しています。株式会社における重要な意思決定は、株主総会において下されますが、実際には全ての株主が議決権を行使する訳ではありません。従って、43.4%というのは、事実上、日産の経営権をルノーが掌握しているに等しい。今更、ルノーに統合されるのは嫌だと言っても、それは無理な話なのではないでしょうか。既に、勝負はついている。それが、資本の論理というものです。結局何をもめているかと言えば、ルノーとしては株主のフランス政府の意向に従って、儲かる車種の製造工場をフランスに作りたがっており、日本人がこれに抵抗しているという構図だと思います。日産の一般従業員にしても、自分は誰のために働いているのか、という課題を抱えざるを得ない。自分のためか、日産のためか、日本のためか、フランスのためか。

 

グローバリズムというのは、各国に同じような弊害をもたらした。そこで、ポスト・グローバリズムということになる。トランプ大統領が登場し、反移民政策、自国第一主義、減税を行ったことには、確かに意味がある。イギリスのEU離脱やフランスのイエロー・ベスト運動も、直接的な主張は反移民ですが、もう少し大きな目で見ますと、反グローバリズムということだと思います。

 

世界の潮流がポスト・グローバリズムになっている今日、何故、日本政府は未だに消費増税、緊縮財政などと言っているのか。理由の1つには、対米従属という問題があると思います。トランプ大統領がAmerica Firstと言っているのだから、安倍総理もJapan Firstと言えば良さそうなものですが、そんなことを言うとアメリカからどんなしっぺ返しがあるか分からない。そこで知恵を絞って戦略を練るのが政治家の勤めだと思うのですが。

 

さて、率直にグローバリズムを批判して来ましたが、それではどうすれば良いのか、という点について、考えてみましょう。端的に言って、国家主義に戻れということです。天皇陛下万歳とか、日の丸掲揚というような国家主義ではありません。自立した国民が、民主的な手法によって運営する国家、という意味です。そして、このような考え方の起爆剤が、先に述べましたMMT(Modern Monetary Theory)の中に秘められていると思うのです。